09/06/2026
ある日、一人の女性が店を訪れた。
話を聞くと、昔、弟の店で洋服をオーダーしてくださっていたお客様だった。
店に入るなり、彼女は驚いた表情を浮かべた。
双子だと知ってはいたものの、雰囲気は違う。
けれど、ふとした仕草や声、言葉を選ぶ間合いがあまりにも似ていて、懐かしさと共に当時の記憶が一気に蘇ったのだという。
「あの頃と変わらない。」
そう呟きながら、彼女の目には涙が浮かんでいた。
弟が旅立ってからも、私はいつもこの店のどこかで見守ってくれているような気がしていた。
けれど、その日、その想いは少しだけ形を持ったように感じた。
帰り際、彼女は店の外に置いてあった古いソファーに目を向けた。
「これ、弟さんのお店で使っていたものでしょう?」
そして微笑みながら言った。
「外ではなく、店の中に置いてあげた方がいいと思う。」
「もっと近くにいてもらった方が、弟さんも喜ぶはずだから。」
少し間を置いて、彼女は続けた。
「だって今日、このお店で過ごした時間は、あの頃の弟さんのお店と何も変わらなかったもの。」
その言葉を聞いた瞬間、止まっていた時間が静かに動き出した気がした。
人は旅立っても、残してくれた想いは消えない。
それはモノに宿り、場所に息づき、誰かの記憶の中で生き続ける。
時を重ねたスニーカーが味わいを増していくように。
大切な人との時間もまた、年月を経て深みを増していくのかもしれない。
「本当に残るものは、モノではなく、そのモノと共に過ごした時間なのかもしれない」
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